ある少女 ある朝


 パンをひとかじりして、家を出る。
 七時十分。
 まだまだ、時間には余裕があった。
 自転車をこぎ、狭い道を走る。
 朝の風が心地いい。
 
 今日は一人。
 いつもは友達と登校している。
 でも、今朝はなんとなく誰とも会いたくも話したくもなかった。だから友達に断りのメールをして、いつもより、ずいぶん早く家を出たのだ。
 最近こんなこと、多いな。
 朝と言わず、ここのところあまり人と接したくなかった。話したくなかった。笑うのがしんどかった。
 うざったい。いつの間にかそんな風に思うようになっていた。
 
 でも、今日は違う。
 違う一日に変えるんだって、そう決めて家を出てきた。
 どうしてこんな気持ちになったのか。
 
 それは、今日が一週間の始まりの月曜日だということ。
 晴れて涼しい気持ちのよい日だということ。
 目覚めがよかったということ。
 それからー、あ、あと星占いで一位だったということ。
 そんなこんなで心機一転。
 頑張るんだ。今日から。
 
 曲がり角をゆっくり曲がって、ふと部活のことを考える。
 バレー部に入部してからもう五ヶ月。
 新しい知り合いがたくさんできた。
 だけど、例のごとく最近はつらかった。たまにしんどくて休むこともあった。
 体力とか先輩とか先生とか。そういったのがちょっと重い。
 どうして部活入ってるんだろう。やめちゃおうかな。何度も考えたっけ。
 
 ほんとなんで部活に入ったんだっけ? 別にバレーがそれほど好きだったと言うわけじゃないし。
 ――あぁ、そうだ。友達がほしかったんだ。
 入学した高校は中学のときの知り合いが少なくて、さびしかった。
 だから、繋がりがほしかった。
 それで、入ったんだ。

 そこまで考えて、赤信号でブレーキをかけた。
 
 ……なら、やめられないよね。

 やめちゃったら、繋がりがなくなっちゃう。
 今の悩みなんかよりも、ずっとずっと大切なこと。
 それは、今の友達を失くすこと。
 失くすなんて怖すぎて、想像出来ない。
 そんな不純な動機でって誰かだ言うかもしれないけど、でもあたしにはすっごく大切なことだから。
 誰がなんと言おうと。
 
 うん、なんだかすっきりしてきた。
 やっぱり今日は、いい日にしよう。
 楽しくて、明るくて、素敵な日。
 今日は頑張れる気がするから。
 
 もうすぐ、学校。
 よし。
 
 頑張ろう。
 
 
  

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