「おお、すげー! きれー」
 「今日は天気が良かったからなあ」
 帰り道。
 私の前には二人の少年が歩いている。上には満天の星空。
 きらきらと輝くそれは、何処までも、何処までも続いている。
 ずっと前、私はこの空をたった一人、見上げていた。
 そのときは孤独を知らなかった。
 人は孤独なんて知らないほうが良い、と言うだろうか。
 でも、私はこの二人に出逢って初めて孤独を知った。
 一人でいる事を寂しいと思えるようになった。
 もう何年も前のあの日、目の前に現れた二人のおかげで……。


 暗闇のその先は


 私の前に、今、手がある。私と同じ、血で穢れた、手。
 私を救ってくれるの?
 差し伸べられた手は今もまだここにある。


 私を飼っていた主は死んだ。
 この二人の少年の手によって、私を除いて全員殺された。彼らは私も殺すのだと思った。
 『あんなガキはどうなったっていいのさ。あいつは道具だからな』
 主が殺される直前に吐いたこの言葉。耳慣れたこの言葉。
 何度も何度も聞かされた。
 どんな酷いことを言われても耐えられる自信があった。
 だけど。
 
 『それなら死んでるも同然だな』
 そう言われた時、今まで失ってきた感情が戻ってきた。
 憎い、辛い、痛い、悲しい。
 『死んでなんかいない。 私は、生きてるっ』
 私はそう叫んだ。
 『…幾度も裏切られてさ。つらかった? 今はもう裏切られても平気? 何にも感じなくなってそれでも生きたかった? それってすごく損してる。こんな世の中じゃ楽しく生きなきゃ、生きてる意味なんてないと思わない?』
 綺麗な少年は言う。
 
 生きて生きて生き延びて、その先には何があった?
 なんにもない。
 だけど、一人だとそれにすら気付かない。
 一人って、寂しいよね。

 泣いた。
 こんなにも悲しいと思ったのは初めてかもしれない。
 「俺は仲間を裏切らない。一緒にいくか?」
 「……うん」


 私の前に、今、手がある。私とは違う、今を生きてる手。
 私を救ってくれるの?
 もう、辛い思いはしたくない。
 本当に連れ出してくれるの?
 この死の闇から。

 差し伸べられた手を、今、掴んだ。
 それはとても暖かかった。



 「なーづーきー。何やってんの。ほら行くよー」
 「あ、待って」

 何度も死んで何度も生きて。
 失ったものもたくさんあった。
 でも、二人はずっといてくれるから。
 先にあったものはまた闇だったけど。
 これからもずっと闇だけど。
 それでも、そこは暖かくて優しくてとても心地の良い場所。
 二人に出逢ってやっと気付いた。

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