雨
「あはは」
いきなり笑い出した少年。
よく見知った顔が楽しそうに笑う。
無邪気な笑顔。赤い傘。
それは純粋すぎて、少し、恐怖を与える。
「ねえ、見て。びしょびしょだ」
少年は手にある傘を放り投げた。
そして、また楽しそうに笑う。
足で水溜りを弾きながら雨の中、はしゃぐ少年の姿。
外見からすればそれはあまりにも似合わない。
似合わないのに、……少年にはよく似合う。
「ふふ、アンタもこっちにおいでよ」
呼ぶ声はどこまでも澄んでいて。
白く細い腕が僕を誘う。
透明な音は雨をすり抜けて僕まで届く。
「雨はね。雨はとても から」
笑う声が聞こえる。
赤い傘がゆらりと歪む。
邪気のない笑顔が赤い傘に隠れた。
「汚れた僕によく似合う」
伝わる、姿の見えない音の波。
赤い傘は目の前にある。
「アンタにも、きっとよく似合うよ」
しかしこの少年ほど、それが似合うものはいないだろう。
消えない雨の音。赤い笑い声。
「帰ろうか。僕らのいるべき場所に」
そう、ここは僕らの居場所ではない。