雨 再会


 あれは雨の日だった。
 二度と忘れない。あのときのこと、全て。
 ――全て。



 あ。目が。
 振り返った赤い傘のなかに少年はいた。笑ってた。


 「オマエもこっちに来るかい?」


 にっと笑ってさも楽しそうな顔で。
 くるくる傘を回しながら、こっちに来る。
 ああ、目が。
 印象的な赤い傘が、水をはじきながらまわる。

 「思い惑うのもいいよ。まだアンタには残ってるから。でも忘れないで、」

 近づいてくる。


 雨が一層激しく降りはじめた。
 そう感じた。


 「キミもここまで、こっち側に浸ってるってこと」


 あと少し。
 スッと伸ばされた白く細い腕。
 そこから生える白い指が、あと、わずか数センチで僕の胸まで届く。

 僕を試すように笑っている。
 笑顔の少年は赤い傘を僕に差し出した。

 「キミにコレをあげるよ。僕らと再会した、しるしさ」

 前に突き出された傘を空いているほうの手で受け取る。
 とても重いものを渡されたような衝撃。


 眩暈がする。


 赤い傘を見ると。少年の笑顔を見ると。赤い、笑顔を見ると。
 とろけるような眩暈が。
 「いつでも帰ってくるといい」

 元々濡れていた少年の体に容赦なく冷たい雨が降り注ぐ。
 それでも少年は笑っていて。
 それはもう楽しそうに笑っていて。

 僕はその笑顔から一度も目を離せないでいた。


 「アンタは僕たちの仲間だよ」


 びしょ濡れの少年が僕の横を通り過ぎる。
 最後の最後に僕の耳のそばで、そっと甘く甘く囁いた。



 「オマエも早くこっちに来なよ」



 「きっと、よく似合う」





 止まっていた時間が動き出したような感触が、体を巡る。
 振り返った。
 そこに赤い少年はいなかった。

 手には、赤い、真っ赤な、傘、が、

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