「考えるヒト」


 「なにやってんの」

 俺の目の前には、一人の友人。
 
 友人は、頭の上に手を置いて、うんうんと唸っていた。
 彼の行動はいつもわからないことばかりだ。

 「なにやってんの」
 聞こえなかったのか、俺はもう一度尋ねた。

 「考えてんだ」

 なんでまた、頭に手を置いて考えるんだ。
 俺が再度聞くと、さも鬱陶しそうに目を瞑ったままで彼は答える。

 「自分自身に聞くために決まってんだろ」
 彼はきっと、たぶん大真面目なんだろう。
 だけど。
 「意味がわからない」

 俺の呟きが聞こえたのかやっと彼はこちらを向いて、馬鹿にしたような顔で言う。

 「馬鹿かお前」

 それはこっちの台詞。馬鹿はお前だ。

 「よくさあ、胸に手を当てて自分に聞いてみろ、というだろう」

 「……お前は胸と頭の区別もできなくなったのか」

 「できるに決まってンだろ! 人の話は最後まで聞けッ。だからさあ――自分に訊くっていうのはつまり、自分の心に訊くっつうことだろ? 胸に心があると思った昔の誰かさんは、そういうわけでこういったんだよ。だけどさあ、俺が考えるに、実際心の場所って、ココ」
 そういって彼は自分の頭をこつこつとつつく。

 なんとなく彼の言おうとしてることが判った気がした。

 「わかった?」
 にっと生意気そうに笑う友人。

 「で、一体なにを自分に訊いてたんだよ」

 再び考え始めてしまった友人に俺は言う。

 「え。そりゃ……。……なんだっけ?」



 「知るか、馬鹿」

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