無題(仮)

 病は気から。
 なら、仮病だっていつかは立派な病気になるかもしれない。

 今日僕は学校を休んだ。
 頭が痛いと寝ていたら、本当に頭が痛くなってきた。様な気がする。頼りないズキズキとしたあるはずのない熱が、額に当てた手から伝わってくる。そんな気がする。
 今僕の頭の中の抗体は、一体何と戦っているんだろう。
 ぼんやりとシミのついた壁を見上げていると、机にあった携帯がなった。
 バイブのせいでガタガタと煩い。
 僕は一人ひとりに着メロを変えるような面倒くさい事は出来ないから、誰からなのかがわからない。もっと言えば、電話なのかメールなのかもわからなかった。
 すぐに鳴り止んだ携帯をしばらく見てからのろのろと手を伸ばす。
 メールだったらしい。
 少ない友人のうちの一人の名前が画面に浮かんでいる。

 『風邪?』
 たぶん彼は解っているだろう。
 『そうなんじゃない?』
 『他人事だな』
 『他人事だよ』
 ぽちぽちとキーを押して文字を連ねる。画面を通じて、彼が笑っている様子が頭に浮かんだ。
 彼は大西翔平。同じクラスの友人だ。僕と違って社交的だし、気さくに人と話すことが当然のように出来る。そんな彼だけど、何故か僕と気が合う。いや、気が合うとはちょっと違うような気がする。
 彼に言わせれば、一緒にいて疲れない、のだそうだ。僕にはよく解らないけど、なんとなく他の人といるよりは気が楽だった。
 『寝てた?』
 『寝転んでた。そっちは?授業中?』
 『当たり!』
 『バレないの?』
 『上手くやってるからね』
 何通ものメールが行き交う。
 よほど暇なのか、返事はすぐに返ってくる。
 『へえ』
 『暇なら外にでも出たら?』
 『外?』
 『いい天気だぜ?』
 『晴れた日ってあんまり好きじゃないんだ』
 『へーそりゃ知らなかった』
 『言ってないからね』
 『引きこもってばっかだと体に悪いぞ』
 『僕は引きこもりじゃないんだけど』

 朝ごはんを食べていないことにふと気付いた。
 気付いたらなんだか腹が減ってきたので、僕はベッドから起き上がって台所へ向かった。もちろん携帯は持って。
 そしたら偶然カーテンの開いていた窓から外が見えた。
 なるほど。いい天気。
 『それも知らんかったな』
 『普通は解るよ』
 冷蔵庫から牛乳を取り出してコップに注ぐ。アイスコーヒーも少し混ぜる。苦いのは苦手だ。でもそのままの牛乳の方がもっと苦手だから、少し入れてコーヒー味をつける。
 きちんと牛乳とコーヒーを冷蔵庫に片付け、テーブルにあいてあった菓子パンを手に取り部屋に戻った。今日の朝ごはんはアンパン。
 『お前の普通はあてになんねーよ』
 『大西は好きそうだね』
 『何が』
 『晴れた日』
 『好きだな』
 アンパンを頬張りながら、部屋の窓のカーテンを開けてみた。柔らかい日差しが部屋に差し込む。思った以上に眩しくて目を細めた。
 『散歩にでも行こうかな』
 『晴れた日は嫌いなんじゃなかったのかよ』
 『嫌いとは言ってない。気分だよ』
 『気分ねー』
 それからしばらくの間連絡が途切れた。そろそろ一時間目の終わる時刻だ。

 僕はミルクコーヒーとは言えないくらいミルクの方に偏ったそれを飲み干し、ジャージから普段着に着替えた。そして、携帯と財布を持って家を出た。


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